手のぬくもり
背中の真ん中に、人の手が、そっと置かれます。手のひらのぬくもりが、背中から体の芯の方へ、じんわり伝わっていきます。そして、だんだん心が安らぎ、癒されていくのを感じます。
ボディートーク、というのを初めて経験しました。まず、顔や腰、脚など、普段緊張やストレスで硬くなっている部位を、自分でマッサージしたり、ストレッチをしたりして、ほぐしていきます。我慢することが多い人は、歯を食いしばるので、あごが硬くなっている、とか、引きこもりの人は足の指が丸まった状態で固まっていて、次の一歩が踏み出せなくなっていることがある、など、心がしんどい時に、体にどんなシグナルを送るのか、説明がありました。
次に、二人組になります。一人は立った状態で、もう一人がその立っている人の背後に立ちます。そして、前の人の肩甲骨と肩甲骨の間に、後ろの人が両手を重ねて、そっと載せます。押すのではなく、載せる、または置く。たったそれだけのことで、前の人は、気持ちがスーッと楽になっていくのが分かります。不思議です。この感覚。
講師の話によると、そうやって背中に手を置いてあげるだけで、涙を流す方もいるそうです。
高齢者をめぐる様々な問題の悩みや相談に応じる「玉名市包括支援センター」が主催する「認知症介護者の集い」の一コマ。この日の参加者の中にも、このボディートークの最中に涙された方がいらっしゃいました。もちろん、人から触られてイヤな感情を持たれる方もいらっしゃるでしょうが、背中に手を置いてもらい、肩や首などをさすってもらうと、孤独感がやわらぎ、自分はひとりじゃないという安心感が生まれて、心が落ち着いていくのかなと感じました。
ボディートークの後は茶話会。「認知症介護者の集い」という名称からの分かる通り、ご家族に認知症の方がいて、現在お世話されている方、または、以前お世話していた方が、参加されていました。みなさん口々に「この集いに救われた」とおっしゃっていたのが印象的でした。
身内に一人は必ず認知症がいるような時代です。「介護される側」と「介護する側」の気持ちのすれ違い、介護方針をめぐる家族内でのいさかい、世間からの視線、無理解…認知症がいざ、「我がごと」となった家族は、まさに嵐の中に放り込まれる感覚かもしれません。
人には言えない深刻な悩みを、みなさんこの集いで吐き出されるのだそうです。同じ悩みや苦労を経験した「同士」が集まっています。でも、みんな赤の他人なので、何の遠慮もなく、日ごろのうっ憤を愚痴ることができます。
同時に、主催の包括支援センターは行政機関ですので、いろんな制度や仕組みで解決できることは、ちゃんと専門家が一緒に考えて、答えを導いてくれます。
認知症の人を介護されている方で、毎日辛い思いをされている方は、一度利用されてはいかがでしょうか。やわらかい手のぬくもりを感じることができます。