土地を継ぐということ(前)
2年前に父が亡くなり、我が家でも「相続」が持ち上がりました。実家ではまだ母が元気ですが、父亡き後は独り暮らし。私も含め子どもたちは、実家以外にそれぞれ自分たちの居を構え、母が亡くなれば、実家は空き家になります。また、田舎なので、山も多少所有していますが、母も子も、その山の場所をよく知りません。
私は長男です。これらの不動産を今後どのように受け継いでいくか、父の相続の主導権を一応任されています。もし、父が生前、こうした不動産をどう使ってほしいなどと、遺言めいた話をしてくれていれば、その通りにしたと思います。でも、そうした話は一度もなかった。離れて暮らしてはいるけれど、たぶん、話そうと思えば、話す時間も、話す機会もあったはずです。父はそれをしなかった。
そこで、私は、この相続をどうしていくかにあたり、「父がなぜこれらの財産の承継について何も言わなかったのか」ということについて、熟慮を重ねました。父の性格やこれらの土地に対する父の思い入れなどを踏まえて、導き出された答えは二つ。
一つは、子どもたちの人生(就職や結婚)を、故郷の土地に縛り付けるようなことはしたくない、と考えていたのではないか、ということ。 父は私たち子どもの進路や人生に関して一切口をはさむ人ではなく、いつも後ろから見守ってくれるような人でした。子どもたちがいろんなご縁によって実家以外のところで暮らすようになったならば、そこで幸せに生きていってくれればいいと考えていたかもしれません。「財産は自分たちの好きにしていい」という答え。
もう一つは、何も言わなくても、当然継いでいってくれるよな、と考えていたのではないか、ということ。父は昔の家督(長子)相続の世代。父も県外に就職して、その後、長男として両親の面倒を見るのにUターンしてきたので、「家を継ぐ」という意識はかなり強かったと思われます。「思われます」というあたりが少し頼りないかもしれませんが、そんな部分を見せない父でもあったのです。「代々引き継いでいくのが当たり前」という答え。
二つの正反対の「答え」が両方とも同じくらい、「父なら考えそう」なことだったので、とても悩みました。でも、私は一つの結論を出しました。その最大の要因は、私の子どもです。自分はまだしも、私の子どもは、実家の辺りとは全く縁がありません。もし、私が今の実家や山を引き継いだとしても、私の子どもに全く住んだこともない土地の管理をしてくれ、墓を守ってくれ、というのは、負担が大きすぎる気がしました。
結局、私は、今実家に住んでいる母が亡くなり、実家が空き家となったとき、言葉が適当かどうか分かりませんが、父から受け継ぐ財産は、お墓なども含めてすべて私の代で「清算」してしまおうと決めたのです。もちろん、今まで財産を大切に守り続けてくださったご先祖様に決して失礼のない形で、そして少しでも世の中に役に立つ形で。
ところが、最近、ある本に出合って、その決断がぐらぐらと揺らいでいます。もう一度考え直してみようか、と思っています。(続く)